今月の経営方針共有勉強会
《 人間の花 》
出典『到知』(ちち)
2018年10月1日
有賀泰治
1、人間の花
木が弱り衰えていくのには五つの段階がある、と安岡正篤(まさひろ)師が言っている。「木の五衰(ごすい)」である。
その第一は「懐の蒸れ」。枝葉が茂りすぎると日当たりも風通しも悪くなり、木の根幹が弱ってくる。この状態が続くと、根が上がってくる。これを「裾上がり」という。そうなると、木は頭から枯れてくる。「末枯(うらが)れ」である。「末」は梢のことである。梢が枯れてくると「末止まり」となる。成長が止まるのである。この頃になると、いろんな害虫がつき始める。「虫食い」である。
この木の五衰を避けるには、枝葉が茂ってきた段階で刈り取ること、即ち省くことだと安岡師は説き、人間もまた同じだという。
人間も貪欲、多欲になって修行しない、つまり省かなくなると、風どうしが悪くなり、真理や教えが耳に入らなくなり、善語善言を学ぼうとしなくなる。これは「裾上がり」で、そうなると「末枯れ」が起こり、「末止まり」となる。人間が軽薄、オッチョコチョイになり、進歩が止まってしまう。揚げ句はつまらない人や事に関わり、取り憑かれて没落する。「虫食い」である。
これを「人間の五衰」と安岡師は人間の通弊を突いているが、こういう人に花が咲かないのは自明の理であろう。
では、人間の花はどういう人に咲くのだろうか。あるいは、人間の花を咲かせるために大事なことは何だろうか。
安岡師の言葉に見るとおり、雑念、妄念を心に茂らせている人に花は咲かない。心の雑草を取り去り、よく手入れし、調和させている人、心の力をよく知る人のみが、人間の花を咲かせるのだろう。
『易経』にこういう言葉がある。
「性を尽くして命に至る」
自分が天から授かったもの、持って生まれた能力をすべて発揮していくことで天命に至る、というのである。天命に至る道は、そのまま人の花を咲かせる道である。
『到知』の過去の掲載・稲盛和夫師のインタビューは、人の花を咲かせるための示唆に溢れている。八十五年の人生を振り返り、人生で一番大事なものは何かの質問に、稲盛師はこう即答されている。
「一つは、どんな環境にあろうとも真面目に一生懸命生きること・・・(私が)ただ一つだけ自分を褒めるとすれば、どんな逆境であろうと不平不満を言わず、慢心をせず、いま目の前に与えられた仕事、それが些細な仕事であっても、全身全霊打ち込んで、真剣に一所懸命努力を続けたことです」
「それともう一つは、やはり“利他の心”、皆を幸せにしてあげたいということを強く自分に意識して、それを心の中に描いて生きていくこと。いくら知性を駆使し、策を弄しても、自分だけよければいいという低次元の思いがベースにあるのなら、神様の助けはおろか、周囲の協力も得られず、様々な障害に遭遇し、挫折してしまうでしょう。“ 他に善かれかし ” と願う邪心のない美しい思いにこそ、周囲はもとより神様も味方し、成功へと導かれるのです」
これまで『到知』に登場いただいた多くの先達が、同じことを述べている。人間の花を咲かすための原点がここにある。我が行いとしたい言葉である。
最後に、花はすぐには咲かない。凡事の徹底と長い歳月との掛け算の上に咲くものであることを忘れてはならない。
2、名を成すは毎に窮苦の日に在り
・・・・・キッコウマン 名誉会長 茂木友三郎
「二十代のうちに一つはスペシャリティー、強みを持つ」
私の経験を踏まえて若い皆さんにぜひお伝えしたいことである。
スペシャリティーを身につけるために何が大切か。いま目の前に与えられた仕事を一所懸命やる。これ以外にない。どうしても合わないと思ったら、部署を変えてもらう、あるいは転職することもありうるだろう。しかし、移っても代わり映えしないことが大概だ。ゆえに、好き嫌いなどという私情を挟まず、与えられた自分の仕事に全力を注ぎ、超一流になろうと努力するべきである。
また、スペシャリスト、すなわち専門家になる上でもう一つ大切なのは、自分で勉強することだ。本を読むもよし、セミナーにいくもよし、それらの教えや周囲の人からのアドバイスを“ 素直に聴き ” “実践 し ” 自分の仕事のツボは何かを早く “ 気づく ” ことが必要だとおもう。
「名を成すは毎(つね)に窮(きゅう)苦(く)の日に在り。事に敗(やぶる)るは多くの得意の時に因(よ)る」
これは『酔古堂剣掃(すいこどうけんすい)』という古典金言集に出てくる一節。立派な仕事はいつも困難な状況の中から生まれてくる。逆に、いい気になった時に往々にして失敗する。
苦しい時に諦めたり、自暴自棄(じぼうじき)になったりするのは簡単だろう。しかし、苦しい時こそチャンスであり、そこで徹底的に努力を重ねていけば成功への道が開けることを忘れないでいただきたい。
3、人間の花をどう咲かせるか
・・・・・道場六三郎
ある女優さんから聞いた一番好きな言葉
「散ることを知りながら咲くことを恐れず」と。いい言葉だなと思って、いまだに忘れられないんですけれど、人生も同じですよね。いずれ死ぬかと分かっていながらも、花を咲かせるために挑戦していく。
僕は今年八十七歳になりましたけれど、一生のうちに一品でも五十年、百年と受け継がれるような料理がつくれれば、自分の花かなと思うんです。
そのために何が必要かと言えば、仕事三昧になること。僕はいままでもどうしたらお客様を喜ばせるおもてなしができるか、いつも考えています。何歳になっても謙虚さを持ち、上を目指していく。もうこれでいいと思わずに人間を磨いていく。それが人間の花を咲かせる秘訣かもしれません。
3-2、人間の花をどう咲かせるか
・・・・・松岡修造
僕は小学校の時の担任の先生が、「一生懸命という字ではなく、一つの所に命を賭ける、一所懸命が正しいんだ」と教えていただいて、それ以来、「一所懸命」という言葉を大事にしています。
そして、僕の現役時代を振り返ると、人間の花を咲かせた成功者というのは、勝った人とかトップに立った人のことだと思っていました。けれども、現役を退いてからのこの二十年間、たくさんの人たちを応援する中で、果たしてそういう人だけが成功者なのかってすごく考えるようになったんです。
『くいしん坊!万才』と番組をやらせていただいて十八年目を迎えましたが、農家や漁師の方、料理人の方から一般のご家庭の奥様方まで、本当に様々な方々におあいする機会に恵まれています。そんな皆様にお話を伺うと、それぞれの分野で一所懸命に生き、人生のチャンピオンとして輝いている人が成功者だと思うようになったんです。
全く世の中に知られないで、自分の仕事に一所懸命打ち込んでいる人はたくさんいらっしゃいます。僕は才能がないところから世界の中に入れたので、可能性というのは誰にでもあると信じていて、可能性を引き出すために大事なのはアイデア、創造力だと思っています。それがどこから生まれてくるのかと言うと、崖っぷちに立たされた時。後がない状況のほうが必死になりますからね。
そういう中で、自分の花を咲かせるために大事なことは、心の声を聞く力を持つことだと思うんです。普通は失敗すると人のせいにしてしまったりしますが、自分の心の声に従って行動した場合は、たとえ失敗しても嘘や後悔がないですよね。そういう失敗は必ず成長に繋がっていく。だから、自分の心の声を聞ける人にして、初めて花を咲かせられるんです。
4、今月の言葉
その先にある地平線
いまのレベルに安住して足元を固めることばかりに一所懸命になっていたら、 絶対にその先にある地平線は見えてこない
・・・・・川口 淳一郎(宇宙科学研究所・宇宙飛翔工学研究系教授)
やりきった後に
10年やるのは本当にきついんだけれども、それをやりきった後に、 違う景色の中に自分がいるんじゃないかと思うんです
・・・・・白鵬翔(第69代横綱)
能力の差、やる気の差
能力の差は五倍、やる気の差は百倍の結果を出す
・・・・・門川大作(京都市長)
本当の努力
努力しようとして努力するというのは、本当にいいことではありません。 努力を忘れて努力する、これが本当にやるべきことなのです
・・・・・幸田露伴(小説家)
働くとは……
働くとは即ち人にサービスをすること。人のことを考えられるのは能力が高く、 幸福になれる基本です
・・・・・水戸岡鋭治(ななつ星in九州などを手掛けたインダストリアルデザイナー)
少しでも明るい笑顔、明るい声で
少しでも明るい笑顔、明るい声で、明るく生きていくことで、 せめて一時の喜びや光なりとも人様に与えていく努力をする
・・・・・横田南嶺(臨済宗円覚寺派管長)
お金では買えないもの
夢と希望を持ち、諦めずに挑戦し続けることがとても大切。 夢も希望も諦めない心もすべてお金では買えませんから
・・・・・安藤忠雄(建築家)